近年頭角を表してきたハイパーポップ(Hyperpop)という音楽を知っているだろうか。
それは、破壊的で自由な電子音がポップという枠組みに詰められた非常に面白い音楽だ。
今回はそんなハイパーポップの音楽性やそこに見える多様性を紹介したいと思う。
ハイパーポップとは
ハイパーポップ(Hyperpop)というネーミング自体は、2019年にストリーミングサービスSpotifyが「Hyperpop」と題したプレイリストを発表したことから来ている。
そもそもこのプレイリストを発表するにあたって、きっかけとなったのは100 gecsのヒットだった。
そしてその後も、TikTokでElyOttoの「SugarCrash!」がメガヒットを記録するなどして、このジャンルはメインストリームにも進出していくようになる。
他にも、<PC MUSIC>というインターネットレーベルがキーワードになる。
<PC MUSIUC>は2018年に、プロデューサー・ソングライターであるAG.Cookが立ち上げたレーベルであり、所属アーティストには故「SOPHIE(ソフィー)」などがいた。
特にこのSOPHIE(ソフィー)は、このジャンルの初期に活躍した一人であり、代表的な音として挙げる事ができるだろう。
一方レーベルを立ち上げたAG.Cookは、新エヴァンゲリオンの主題歌である「One Last Kiss」を共作し、その後彼女のアルバムにも参加している人物だ。
宇多田ヒカル「BADモード」もハイパーポップ的な作品と言える。
日本でこのジャンルにおいて注目したいのは、<Maltine Records>というレーベル。後に紹介する長谷川白紙などを輩出している。
では、ハイパーポップの音楽性はどういったものなのだろうか。
代表的なアーティスト
もともとSoundCloudで発展していた、「Nightcore」や「Kawaii Future Bass」がメインストリームに出てきたような音楽性。
電子音楽を軸として、時にビートが曖昧で展開も型にハマらない。R&B・ROCK・JAZZ・EDMなど様々なジャンルをうまくポップに落とし込んでいるジャンル。
個人的に、すごく住み分けが難しく形のハッキリとしない音楽だと思っているので、代表的なアーティストを何組か紹介する形で、このジャンルの音楽性を知ってもらいたい。
「音の広がり・重なり」「電子音(エフェクト)の使い方」「歌声」の3ポイントに注目して聴いてみてほしい。
SOPHIE(ソフィー)
2021年に34歳という若さで亡くなってしまったSOPHIE。
2018年にリリースしたファースト・アルバム『OIL OF EVERY PEARL’S UN-INSIDES』は、トランスジェンダーとしてのアイデンティティを表現し、グラミー賞の最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞にノミネートされた。
100 Gecs
2015年結成のポップ・ラップデュオグループ。
ハイパーポップの発展に大きな転期となるヒットを生み出した。
長谷川白紙
2016年からインターネットを中心に音楽活動を開始。
何層にも重なるリズムと、時にダイナミックな音使いが魅力的だと感じる。
4s4ki
自身の楽曲だけでなく、『けものフレンズ』『SHOW BY ROCK!!』など、メディアミックス作品の舞台音楽も手掛ける。
破壊的な電子音の中にも、ポップでキャッチーなメロディーが混在しているので気持ちが良い。
ハイパーポップに見る多様性
形やジャンルにとらわれない曲の展開、オートチューンで中性的・無性的な声色を表現するなど、自由な発想で生み出されるハイパーポップという音楽。現代においてはスタンダードなことかもしれないが、顔を出さずに活躍するアーティストも多い。
ハイパーポップは、LGBTQのオンラインコミュニティで発展した音楽とも言われていて、先ほど紹介したSOPHIE(ソフィー)や「100 Gens」のローラ・レス、同じく初期からこのジャンルで活躍するKim Peaters(キム・ペトラス)は自らがトランスジェンダーであることを公表している。
日本で注目されている、諭吉佳作/menも自身ノンバイナリーであるような文章を公表している。
そんな人々の作る音楽には、まさしく『多様性』がある。
まだまだ多様性が認められているとは言えない世の中、インターネットを通して発達したこの音楽ジャンルが一過性のもので終わってしまうのか、それとも表舞台でその思想や行動を含めて認められるような音楽になっていくのか、特に日本を中心として注目していきたいと思う。