僕が中村佳穂に出会ったのは2021年公開の映画「竜とそばかすの姫」からだった。
映画冒頭に流れるミレニアムパレードとの楽曲「u」で一気に映画に引き込まれる感覚。
家に帰ってからも頭の中では、大迫力で素晴らしい音楽が何度も繰り返し流れる。
中村佳穂について調べてみると、業界ではものすごい評価を受けている人物だということが分かった。
早速アルバムを聴いてみて、今年で一番の驚きが押し寄せてくる。あまりにも素晴らしい。
音楽好きを自称しておきながらこの天才の存在を知らなかった自分がすごく恥ずかしくなった。
映画から彼女の存在を知った人も、もしかしたらまだ知らなかったという人もまだ遅くはないので、今すぐにこのアルバムを聴いてほしい。
アートとグルーヴの調和
中村佳穂がどんな曲を作る人物なのかを知らなかった自分は1曲目「You may they」を聴いて衝撃を受ける。
このアルバムの世界観と方向性をリスナーに定義付けるようなクオリティの高い1曲と言っていいだろう。
冒頭のシンセサイザーと何重にも重なり混じり合うコーラス群が、独特の世界観と強いアート性を感じさせる。
曲は陶酔感を持ったまま進んでいくのかと思いきや、途中から自分の声すらもリズム楽器にするようにしてとてもグルーヴィーな曲調へと変化していく。(具体的には1:05あたりの部分から)
『アートとグルーヴの調和』が感じられる曲であり、これが彼女の魅力なのかと気づかせられた。
3曲目「きっとね!」は、アルバムの中で最もキャッチーな歌詞とメロディーに仕上がっている。
歌い回しにもぜひ注目してみてほしい、声をわざと震わせたり、クリーンな歌声になったりという事が、やっと気付けるかどうかのレベルでシームレスに行われている。
体と一体に響く音
5曲目「永い言い訳」はピアノ弾き語りの曲で、アルバムの前半を締め括るようにゆったりと流れる。
この弾き語り曲にこそ彼女の魅力は詰まっている。とにかく綺麗、メロディーも歌声も。それだけで充分なのだ。
音楽のブログなんか書いている自分は特に、「この曲は何処がいいところなんだろうか」とかいろいろ考えながら音楽を聴く事が癖になってしまっているけど、本来音楽は何も考えないで聴いていい物なのだという事を思い出した。
後半の曲はリラックスすればするほどに音が体と繋がっていくような不思議な感覚がある。
ぜひ寝っ転がって目を瞑りながら聴いてみる事をお勧めしたい。
そしてこのアルバムで最も紹介したいのが11曲目「そのいのち」だ。
さっきは音と体が繋がっていくような感覚と表現したけれど、この曲はさらに大地や空とも繋がれそうなそんな気持ちにさせてくれる曲。
なにがそこまで気持ちを動かすのか。どこか民謡のように鳴る歌詞・メロディーからは、何百年も前からこの曲が歌い継がれているような感じがするし、「いけいけいき年GO!GO!」と歌うところは日本中で合唱でもしているかのようなそんなスケール感がある。
曲を聴いていてここまで大きな気持ちを感じたのはもしかして初めてかもしれない。
あぁこれが「音楽」なのかという感嘆と共に涙腺が熱くなった。
これからの人生の中で本当に大切なときに聴いていく曲になるんだろうなと思うくらいに、自分にとっては感動的で大きな出会いだった。
アルバムを通しての流れ、作曲センス、スケールも素晴らしく。邦楽史で語り継がれるレベルの作品なのではないかと思う。
そしてそんな作品に出会えて本当に良かったなと思う。
作品情報
作品名 | AINOU |
作者 | 中村佳穂 |
レーベル | SPACE SHOWER MUSIC |
発売年 | 2018年11月7日 |
収録 | 1.You may they 2.GUM 3.きっとね! 4.FoolFor日記 5.永い言い訳 6.intro 7.SHE'S GONE 8.get back 9.アイアム主人公 10.忘れっぽい天使 11.そのいのち 12.AINOU |
シンガーソングライター中村佳穂の2ndアルバム。
リスナーだけでなく業界関係者、評論家からも多くの評価を得たこの作品は、雑誌『ミュージックマガジン』の特集「2010年代の邦楽アルバム・ベスト100」では第9位に選出された。
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